今年の文藝賞受賞作、2作のうちのもう一作は山下紘加『ドール』。作者は21歳の女性である。
 語り手の「僕」こと吉沢は中学2年生。小さい頃から〈他の男の子達のように戦闘ごっこや、テレビゲームで遊ぶよりも、人形と遊ぶのが好きだった〉という男子である。
 その彼が公園の草むらで人形を拾ったのをキッカケに、ネット通販でラブドール(性処理のための人形)を購入したところから、物語は転がりはじめる。届いた人形を丁寧に組み立て、ユリカと名づけた吉沢は彼女との付き合い方を計画する。
〈初めの一ヶ月は仲を深め合う期間として、軽いスキンシップをし、次の一ヶ月間でキスをし、そしてさらに次の一ヶ月間、つまり今から三ヶ月後に彼女とセックスをする──〉
 一般的な感覚でいえば、まあ変態的な少年であろう。でも彼はまだ14歳。14歳の少年少女なんて、みんな変態だともいえるしね。実際、彼は自分がどう見えるかも知っていて、その対策も怠らない。
 一方、学校での彼はいわゆる「いじめられっ子」である。同級生の今泉らの標的にされており、執拗ないじめは止むことがない。あるときはパンツを脱がされ、あるときは女生徒の机にコンドームを入れろと強要され。生きた人間とどうコミュニケートしていいかわからない彼は、友達になれそうだったクラスメートの長谷川や後藤由利香にも、ひどい仕打ちをしてしまうのである。
 長谷川にユリカの存在を知られ、「等身大の人形だろ、性処理目的の」と指摘された彼は「違う!!」といいはる。〈普通に、一緒にご飯を食べたり、手をつないだり、そういうのを、そういうことを、してるだけなんだよ、僕達は〉。
 少年事件が描かれているわけではないものの、このまま行けば……と思わせるスリリングな展開。事件につきものの「心の闇」なんて言葉は無意味である。〈僕は、友達というものが、よくわからなかった〉。案外これが本音かもわからないのだ。

週刊朝日 2015年12月18日号

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