東京大学の安田講堂
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 近年、国立大学の授業料の引き上げが相次ぐなか、ついに東京大学も値上げを検討していると報じられた。引き上げ額は最大で約10万円になるとされるが、その「10万円」は一部の学生や保護者にとって、金額以上の重みを持つ。金銭的に苦労しながら東大に通う現役学生と、受験生の事情に詳しい東大出身の識者に「10万円」引き上げが与える影響を取材した。

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「もし授業料の引き上げが決まったらバイトを増やさなければならず、もしかしたら、研究者への道は諦めなければならないかもしれません」

 東京大学在学中の男子学生・Aさんはこう肩を落とす。Aさんは文化Ⅱ類総合文化学科に通う3年生で、将来は言語学者になるのが夢だという。

「言語学者になるには大学院に進学するのが近道ですが、すでにアルバイトを週に4回入れて生活費と家賃に回していますが、研究が忙しくてこれ以上は増やせません。学費引き上げのニュースを聞いたときに、やっぱり諦めるしかないのかなという気持ちになりました」

 Aさんは3人兄弟の長男で、両親が小学校の頃に離婚したことから、父親の実家である青森県で育った。兄弟も多く、父親に苦労をかけていることはわかっていたので、高校生の頃から学費の安い国立大を目指していた。地元のファミレスでアルバイトをしてお金をため、予備校ではスカラシップを取り、受験費用は最小限に抑えた。

「本当は言語を学びに海外の大学に行きたかったんですけど、親に苦労がかかるのでそれは諦めて、東大を目指しました。日本で一番難しい東大に入ることが、自分が言語学者になるための最短かつ最安のルートだと思ったんです」

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「今でもきついのに、さらに?」