日本人が「出すぎた杭」を称賛する理由

 大谷は、野球というスポーツのルールさえも変えてしまった。MLBは2022年シーズンから「投手として出場した選手は降板後も指名打者としてラインナップに残ることができる」という、いわゆる「大谷ルール」を導入した。そのネーミングが示すように、今やMLBの顔である大谷を可能な限り試合に出場させることを事実上の目的としたルール変更である。

 野球発祥の地、アメリカで野球のルールを変えてしまったのだから、大谷は文字通りの「ゲームチェンジャー」だ。既存のルール内で最高のパフォーマンスを見せるのが一流のアスリートだが、ルールそのものを変えてしまう大谷は異次元の存在と言うしかない。そんな選手が日本から出てきたという事実に、僕ら日本人は興奮を隠せない。

 一般的に「突出した個人」を好まず「横並び」が善しとされる日本社会では、よく「出る杭は打たれる」と言われる一方で「出すぎた杭は打たれない」とも言われる。大谷は「出すぎた杭」だ。ここまで突出しているともはや誰もその杭を打つことはできず、称賛するのみ。そして僕ら日本人は「出る杭は打たれる」社会に生きているからこそ、心のどこかで「突出したヒーロー」を求めているのだろう。

 自分自身が「出すぎた杭」になれないのならば、せめて別の誰かがそうなってくれないだろうか? そんな日本人の深層心理に、最高のかたちで応えているのが大谷なのかもしれない。「出すぎた杭」に憧れる一方で、現実には「出る杭」にならないよう、細心の注意をもって暮らしている僕らは、大谷翔平という「出すぎた杭」を見て爽快感を覚える。

 荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する有名なセリフを使えば「さすが大谷! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ!」というわけである。

実力や実績だけではない「映える男」

 僕ら日本人が大谷に夢中になる理由として考えられることを書き連ねてみたが、野球選手としての実力や実績だけでなく、彼の外見、ひらたく言うと「見た目のカッコよさ」も大谷の人気を語るうえで無視できないだろう。

 日本でプレーしていたころの大谷はまだ表情には幼さとあどけなさが残っており、体の線も細かった。しかし間もなく30歳になる今、大谷は凛々しさと爽やかさを兼ね備えたイケメンであり、何より鍛え上げられた肉体美が目を見張る。かつてアトランタ・ブレーブスの中心選手として活躍し、2018年にアメリカ野球殿堂入りを果たしたチッパー・ジョーンズは、大谷の肉体についてこう表現している。

「これまで見てきたベストな野球体型のひとつ……彼はアドニス(ギリシャ神話に登場する美少年)だ」

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