『STORYTONE』NEIL YOUNG
『STORYTONE』NEIL YOUNG

 アナログ録音に徹底してこだわった『ア・レター・ホーム』からわずか半年後ということになる2014年秋、ニール・ヤングは、またまた、いかにも彼らしいこだわりを感じさせるアルバムを発表している。タイトルは『ストーリートーン』。ジャケットには、同時期に出版された『スペシャル・デラックス~ア・メモワール・オブ・ライフ&カーズ』で歴代の愛車の数々を自ら描いていたのと同じタッチのイラストが使われている。そこで描かれているのは、ニールが目指す究極のエコカー、リンクヴォルト。その脇に立つ男は、これまでの道程を振り返っているようでもあり、未来に想いを馳せているようでもある。

 収められているのは、長年ニールが取り組んできた環境/エネルギー問題と直接的につながる《プラスティック・フラワーズ》、《フーズ・ゴナ・スタンド・アップ?》、《アイ・ウォント・トゥ・ドライヴ・マイ・カー》、その活動を通じて出会ったという現在のパートナー、ダリル・ハナへの想いが伝わってくる《アイム・グラッド・アイ・ファウンド・ユー》、《タンブルウィード》、《ホエン・アイ・ウォッチ・ユー・スリーピング》など、10曲。ソングライターとしてのニールの魅力をあらためて教えてくれる、豊かな味わいの曲ばかりだが、興味深いのはその録音プロセスだ。

 ニールはこのプロジェクトの共同プロデューサーにニコ・ヴォラス、エンジニアには大ベテランのアル・シュミットを迎え、まず、ギター/ハーモニカ/ピアノ/ウクレレなどの弾き語りで10曲を録音した。その際、オーヴァーダビングは一切なし。これだけでも充分に「作品」なのだが、このあと彼らは、2人の編曲家を起用し、大編成のオーケストラやビッグバンドとともに、同じ順番で10曲すべてを録音したのだ。ここでは、多くの名作映画のサウンドトラックが録音されたサウンドステージを使い、マイクは基本的には1本のみで、やはりオーヴァーダビングは一切なし(ニールはヴォーカルに専念し、ギターはワディ・ワクテルらに任せている)。これもまた、とんでもなくニール・ヤングらしいこだわりであり、『ア・レター・ホーム』同様、こうした無謀とも思える行動を通じて彼は、音楽本来の魅力をなんとか多くの人たちに伝えようとしているようだ。

 フォーマットとしては、オーケストラ編のみのヴァージョン、弾き語り編をディスク1、オーケストラ編をディスク2とした2枚組ヴァージョン、さらに両方のエレメントをミックスさせたMIXED PAGESヴァージョンがある。 [次回12/9(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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