3月にカナダ・モントリオールで開催された世界選手権。男子フリーの演技を終えた宇野は、満足そうな表情を浮かべていた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「今回は1位を意識して、他の選手の演技を見ながら優勝がチラつく部分もありましたが、自分の気持ちをコントロールできた。それは、結果が、僕を支えてくださった人への恩返しになると思っていたからです」

 この目標の定め方が功を奏し、世界の頂点に立った。

 引退会見でも、スケート人生の中で最も思い出に残る瞬間を、こう挙げた。

「世界選手権で初優勝した後のステファンの喜んでいる姿が、自分にとって記憶に鮮明に残る思い出です」

 この「恩を返す」という美学は、他の場面でも体現してきた。北京五輪以降は、得点を待つキス&クライやリンクサイドに、コーチだけでなく出水慎一トレーナーを帯同。その理由を当時こう語った。

「トレーナー業って、本来なら一度も(公の場面に)顔を出すことがない。五輪のリンクサイドに立ってもらったことで、普段支えてくださる方が、皆に見られたことが嬉しいです」

 感謝の気持ちは、引退の会見でも改めて伝えられた。

「僕は本当に出会う人たちに恵まれたなと思っています。周りの方々が、僕が好きなようにのびのびとやれるようにサポートしてくださって、全力を出せたことが、素晴らしい結果につながりました」

(ライター・野口美恵)

AERA 2024年5月27日号より抜粋

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