不妊治療は「妊活」という言葉の普及とともに、今や珍しくなくなった。それでも性に関することは周囲に相談しにくいテーマだ。「性とカラダスペシャル」として、不妊治療の当事者たちに取材した記事を再掲載する(2022年8月15日に配信した内容の再掲です。年来や肩書等は当時)。
◇
今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。
センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。
* * *
「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」
東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。
夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。
身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。
具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。
夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。
A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。