裏面には「転売禁止」と明記されている「黄色いワッペン」=みずほフィナンシャルグループ提供

ワッペンは「保険証券」ではない

 というのも、ワッペンの裏には「交通事故傷害保険付」と書かれているが、ワッペン自体に保険証券としての機能があるわけではない。たとえワッペンを持っていなくても、国内の小学1年生なら保険は適用される。

「小学1年生は、学校や登下校時にワッペンをなくしたり、破損したりしてしまうことは珍しくありません。それを想定して保険を設計しています」(引受保険会社の損害保険ジャパンの担当者)

 逆に、ワッペンを身につけていたとしても、小学1年生でなければ、保険の対象にはならない。

 ちなみに、ワッペンをなくしてもどうしても子どもにつけてあげたい場合などは、「学校を通して追加請求が可能」だという。「個人からの請求には対応しておりませんので、まずはお子さまが通学されている学校にご相談ください」(みずほFG)

多くの保護者が加入する保険とは

 そもそも、多くの保護者は、「災害共済給付制度」「児童・生徒総合補償制度」に加入している。災害共済給付制度は、学校が保護者の同意を得て日本スポーツ振興センターと契約するもので、掛け金は学校と保護者が負担し合う。小中学生の場合、掛け金は年額920円(沖縄県は460円)。全国の小学生の加入率は99.8%(2022年度)と、極めて高い。校内での事故に加え、通学中の事故にも適用される。

 ワッペンにつく保険では、死亡、もしくは後遺症が残った場合に最高50万円が支払われる。

 一方、災害共済給付制度は、死亡が1500万円、障害はその程度によって2000万円から44万円が支払われる(いずれも通学中の事故の場合)。

 児童・生徒総合補償制度はPTAが取りまとめる保険で、団体割引が適用されるため、個人が加入する保険に比べ、同じ補償内容でも保険料が安くなる。災害共済給付制度より掛け金は高いことが多いが、より広い範囲で補償を受けられる。

交通事故で子を失った母の手紙がきっかけ

 富士銀行(現・みずほFG)が「黄色い腕章」贈呈事業を始めた1965年は、交通事故による死傷者が増加をたどるさなかで、70年には死者は1万6765人に達した。交通事故でわが子を失った母親の手紙をきっかけに、行員が子どもたちに目立つものを身につけてもらおうと、「黄色い腕章」を採用。68年から腕章に交通事故傷害保険がつくようになり、74年に腕章からワッペンの形式に変更された。

 贈呈事業は60年目を迎えた今年、記念としてピカチュウをデザインした。皮肉なことに転売が増え、問題が一気に表面化してしまった。

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ワッペンは役割を終えたのか