展覧会の狙いに気づき問いかけた
源氏物語について一般的に知られる江戸時代の注釈書といえば、江戸時代の国学者で俳人である北村季吟(きたむら・きぎん)の『湖月抄(こげつしょう)』。しかし、愛子さまを最初に案内したのは、幕臣による「源氏物語」の注釈書『窺原抄(きげんしょう)』であった。
というのも、もともと公文書館は、徳川幕府が江戸城内に設置した図書館『紅葉山文庫』を源流とし、幕臣がコツコツと記録してきた資料も多く所蔵する場所だ。そうした館の「光源氏展」だからこそ、幕臣の手による注釈書で「源氏物語」の世界を浮き彫りにしようと試みたのだという。
『窺原抄』を保有するのは、同館と東北大学のみ。愛子さまは『窺原抄』の存在を知らなかったものの、すぐに、展覧会の「狙い」に気づいたといい、こう質問した。
「北村季吟(きたむら・きぎん)の『湖月抄』と、展示された『窺原抄』をとの関係はどのようなものなのですか?」
なぜ世に知られた『湖月抄』ではなく、『窺原抄』を展示したのか、ということを尋ねたのだ。
愛子さまと星さんとの古典談義は、深い部分で盛り上がった。
室町時代末期から50年ほどで衰退した「古活字」(こかつじ)という印刷方法で刷られた『大鏡』(おおかがみ)、藤原道長の栄華や朝廷や公家の世相を描いた『栄花物語』、そして『源氏物語』。こうした資料を目にした愛子さまは、こんな感想を漏らした。
「まっすぐきれいで、写本と見分けがつきませんね」
古典への深い観察眼と愛情がにじむ感想だ。
「思い入れがある場面です」
また、藤原隆家が花山院に矢を射かけて襲撃した「長徳の変」を展示していた『栄花物語』を前に、こう説明した。
「高校時代のリポートでも取り上げたんです。大変思い入れがある場面です」