松下由樹(まつした・ゆき)/1968年、愛知県出身。83年、映画「アイコ十六歳」でデビュー。89年、ドラマ「オイシーのが好き!」で初主演。90年、「想い出にかわるまで」で姉の婚約者を略奪する妹役を演じて注目を集める。92年、映画「新・同棲時代」「波の数だけ抱きしめて」で、第15回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。主な出演作に、ドラマ「29歳のクリスマス」「ナースのお仕事」「週末婚」「大奥 第一章」「臨場」「警視庁ゼロ係 ~生活安全課なんでも相談室~」など。6月2~27日、熱海五郎一座「スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~」(東京・新橋演舞場)出演(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 15歳でデビューし、コンスタントに第一線で活躍している松下由樹さん。トレンディードラマからコメディーまで、さまざまな役を演じ続けてきた。演技があまりに真に迫り、“嫌われる”時期もあったことも。つらい時期をどう乗り越えたのか。AERA 2024年5月20日号より。

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役者冥利に尽きる経験

 常に明るく語る松下さんからは想像がつかないが、“嫌われる”時期もあった。出世作となった90年のドラマ「想い出にかわるまで」で演じた姉の婚約者を略奪する妹役が、あまりに真に迫っていたためだ。

「あのときは本当に嫌われました(笑)。テレビのスタッフさんからも、取材をしてくださる方からも、誰からも好奇な目で見られて。毎回、どういう子なんだろう、役と一緒なんだろうかっていう目から入ってくるっていう。もう、忘れられないですね。電車に乗っていて、知らない方に捨て台詞を吐かれたこともありましたよ。すごい影響力なんだなって思いました」

脚本家の内館牧子さんに、相談をしたことは?

「いえ。当時は、私がいちばん若かったので。それ以上に、話が話だったので、(姉役の)今井美樹さんも、(婚約者役の)石田純一さんも、みなさん、本当に大変だったんですよ。しんどい役って、体にもきますよね。もう、忘れられないスタジオの空気感とか、いっぱいありますよ。お姉ちゃん役の、今井美樹さんの、泣き声が響くシーンとか……、現場も大変だった。私以上だったと思いますね。だから自分がどうこうなんて、言えなかったです」

 そのつらい時期を、21歳だった松下さんはどう乗り越えたのかと問うと、「役者冥利(みょうり)に尽きるっていう言葉でしたね」と穏やかに微笑んだ。

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