余談だが、このリベートは不当廉売につながることから公正取引委員会による注意喚起などの対象となってきたほか、酒税法の改正によって一定の基準が設けられてきた。

 また、あまりにリベートを大盤振る舞いすると自社の利益を圧迫するため、メーカー各社はリベートの金額を調整し、安売りを広げすぎない施策を打っていた時期がある。だが小売店からの反発もあり、リベートという商習慣は形を変えて残り続けているのが現状だ。

 セブンの生ビールに話を戻すと、こうした「二つの事情」がある状況下では、テスト販売の再開は難しそうだ。他の大手を含め、夏の需要期を迎えても、店内で売られるのは今まで通り「缶ビールのみ」だと考えられる。

「コンビニで注ぎたての酒を売る」 ビジネスの最適解とは?

 しかし、「コンビニで注ぎたての酒を売る」という施策にビジネスの芽があるのも事実である。その証拠に、JR東日本の沿線内で駅ナカコンビニを展開する「ニューデイズ」は、今も一部店舗で生ビールを売り続けている。ニューデイズは店舗が駅構内にあり、酔客のたむろを物理的に防げるほか、新幹線の乗客などによる利用が見込めるという特殊事情があるから成立しているのだろう。

 また、昨今は「お酒の美術館」というバー(運営会社は京都市に本社を置くNBG)がファミリーマートやローソンと組み、コンビニの店内に出店している。顧客は店内で購入したおつまみやチルド食品などを持ち込めるのが特徴だ(ドリンクは不可)。「ファミチキ専用ハイボール」「からあげクン専用ウイスキー」といったコラボ商品も売り出しているようだ。

 報道によると、2023年11月時点での店舗数はファミマ8店舗、ローソン4店舗。本格展開はまだこれからだが、今のコンビニは酒店から業態転換したところも多いため、運営サイドとのシナジー効果も得やすく、このバーは業界全体に拡大しそうな雰囲気だ。

 何しろ、この業態であれば、顧客は生ビールなどの注ぎたての酒を安く飲める。コンビニ前やイートインスペースより落ち着けるメリットもある。コンビニ側は買い上げ点数の増加が見込めるほか、自前でバーを運営する必要もなく、入り口を分けてテナントのように入居してもらえばいい。バーの運営側も、コンビニで気軽にお酒を飲みたいという客層を取り込める。

 この三者がそろって「Win-Win」になる仕掛けによって、コンビニ側はお酒を巡る問題が起こるリスクを押さえつつ、収益を最大化できるというわけだ。顧客がバーに移動したとしても、経営母体は別である。イートインスペースに顧客が滞留している場合と比べて、コンビニ単体での回転率が高まるという計算も働く。

 昨今は少子高齢化が進んでいるが、見方によっては「一般消費者に占める『合法的にお酒を飲める人』の割合」は高まっていると言える。新型コロナウイルス禍を経て、ビールを含む酒類市場の規模は縮小しているが、顧客獲得のチャンスは残されているのだ。

 その中で「酒好き」の支持を得る手段として、「飲めるコンビニ」は最適解なのかもしれない。

(森山真二)

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