イスラエルのヘブライ大学(ロイター/アフロ)
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 イスラエルとハマスとの戦闘が続くなか、イスラエルの国立ヘブライ大学人文学部のニシム・オトマズキン教授は、学部長として多くの課題に直面してきたという。オトマズキン教授によるコラム「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」。今回は大学における戦闘の影響について。

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 私は国立ヘブライ大学の人文学部長として、昨年10月7日から続く紛争の間、大学内でのコミュニティーで、ユダヤ人とパレスチナ人の相互尊重を維持するため、多くの課題に直面してきた。

 10月7日、イスラエルで1200人以上の命が失われ、何百人ものイスラエル人らが誘拐され、133人がいまだに捕らわれの身となっている。ハマスの攻撃から半年以上が経過した。この攻撃は、ホロコースト以来、ユダヤ人に対する最も致命的な攻撃の一つだ。これに対し、イスラエルは強力な攻勢を開始し、ガザの大部分を制圧した。何千人ものハマスのテロリストが標的にされた一方で、イスラエルの反撃は、女性や子どもを含む多くの無辜(むこ)のパレスチナ人の死をもたらした。攻撃は今も続いている。

 イスラエル国内では、ハマスが犯した残虐行為に対する復讐を求める強い声が過激さを増している。イスラエルの平和運動は、現在も2国家解決を提唱しているが、現在、国内の焦点は、イスラエルの安全保障上の懸念に向けられている。

 この戦争は、イスラエルのユダヤ人とイスラエルのアラブ人の関係をも緊張させた。イスラエルの人口の約20%は、イスラエル国籍を持つパレスチナ人である。ハマスの攻撃は、パレスチナ人に対する不信感を増幅させている。 

 私たちの大学は外部の出来事から孤立して存在することはできない。ハマスの攻撃によって引き起こされた紛争は、私たちの大学コミュニティーに深刻な影響を与え、緊張を高め、キャンパスの安全とセキュリティーに関する懸念を引き起こしている。さらに、イスラエル国内の政治的主張の二極化は、平和と相互理解を進めるうえで障害となっている。

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