谷合廣紀四段(右)。「よしもと将棋芸人 関東将棋ブ!」の特別顧問も務める=2024年5月4日、神奈川県川崎市(写真:松本博文)

 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年5月20日号より。

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 将棋界の歳時記では、5月は名人戦が佳境を迎える季節だ。藤井聡太名人と豊島将之九段の七番勝負のゆくえに目が離せない方も多いだろう。

 コンピュータ将棋界ではこの分野における「名人戦」ともいうべき、世界コンピュータ将棋選手権がおこなわれる。1990年の第1回大会以来、多くの開発者たちが本大会を目標に切磋琢磨し、技術を向上させてきた。現在では開発を職業にしている参加者はほぼおらず、属性は様々。趣味として「ただ面白いから」という人が多いようだ。

 今年2024年の本大会も多くのトピックが生まれた。優勝候補の一角と目された「水匠」(杉村達也さん開発)が二次予選で敗退するなど、結果は波乱の連続。決勝に進み4位に入った「koron」開発者の野田煌介さんはまだ高校2年生。いずれこの分野における藤井名人のような存在になるかもしれない。優勝は野田久順さんらが開発した「お前、CSA会員にならねーか?」。ユニークな名称の由来はここでは割愛する。もし興味を持たれた方は、CSA(コンピュータ将棋協会)のウェブページをご覧ください。

 特筆すべきは棋士の谷合廣紀四段が開発した「Polonaise」(ポロネーズ)が8位に入ったことだ。客観的に見れば、棋士として大変な快挙を果たしたといえる。ただし関係者の間では谷合四段は「ガチ勢」と見られているためか、さほど驚きの声も上がらなかった。谷合四段は現在、東京大学大学院博士課程で電子情報学を専攻中。22年に本大会に初出場した際には、自然言語処理の枠組みで推論を行うというアイデアで、独創賞を受賞した。

 ピアノを後ろ向きで弾ける特技も持つ谷合四段。山本博志五段との「銀沙飛燕(ぎんさひえん)」というコンビでM−1グランプリへの挑戦も表明した。谷合四段こそ、将棋界が誇る万能の天才と言ってもよさそうだ。(ライター・松本博文)

AERA 2024年5月20日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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