一つだけ印象に残っているやりとりがある。時間外労働の大半を部活が占めることを説明すると、産業医からこう聞かれた。
「先生方は、何で部活動を勤務時間内にやらないんですか?」
自分もなぜなのか知りたい。そんな言葉をのみ込みつつ、「本当ですよね」と返した。相談後も、現状はあまり変わらなかった。
文科省は19年に出したガイドラインで、時間外勤務の上限を「月45時間、年間360時間」と決めた。特別な事情でやむを得ない場合でも、「過労死ライン」とされる月100時間を超えないよう明示した。ただ、ガイドラインが出た後も、抜本的な改善には至っていないとの指摘は根強い。
東京都教育委員会によると、都立高校で時間外労働が月80時間を上回った教諭は19年 10月が6.9%だったのに対し、20年10月には10.2%とむしろ増えていた。
生徒の思いに応えたい。もう一人の顧問の負担を少しでも軽減したい。男性教諭は、そんな思いで、自分にできることは全力でやってきた。でも、交際している女性と会う時間もほとんどなく、相手からの理解も得にくくなっている。結婚したり、子どもが生まれたりしたらどうなるのか。そんな不安もよぎる。
自分の将来像を、描けずにいる。