※写真はイメージです。本文とは関係ありません(gettyimages)

 なるまさん。

 僕が何を言いたいのかというと、「皆から好かれることはまず無理だから周囲を気にしない」というなるまさんの文章の「周囲を気にしない」という部分のことです。

「周囲を気にしない」とか「嫌われることを気にしない」という否定形を実行することは、人間には不可能だということです。

 なるまさんは「自分の世界に入る」と書かれていますが、このことをもっと具体的に実行することしか、否定形を無視することはできないのです。

「あなたと話さない。だから、スマホを見る」なんてことですね。

「絶対にピンクのワニを想像するな!」と言われたら、ピンクのワニのことなんか忘れるぐらい、レインボーカラーのパンダと遊ぶ瞬間を想像することです。

「頭では色々試行錯誤してますが」と書かれていますが、この6年間、なるまさんは、大好きなことはできましたか? 他人になんと言われようと、「これが好きだあ!」なんてことを見つけましたか?

 他人の目なんか気にする余裕がないぐらい、つまり否定形を忘れるぐらい、熱中する肯定的なことと出会いましたか?

 どうも、まだ出会ってないんじゃないかと僕は思います。

 他人の視線や評判を気にする以上に、面白いことを見つけてないから、ずっと悩んでいるんじゃないかと思うのです。

 見つけましょう。なんでもいいんです。そのためには、まずは出かけましょう。頭の中ですべて処理する世界から、体で感じる世界に行きましょう。

 好きなスポーツはないですか? 野球が好きなら野球場へ、サッカーが好きならスタジアムへ、興味がなくても有名なバンドやアイドルのライブに行ってみませんか? 演劇を劇場で見るのはどうですか? 美味しいラーメンの食べ歩きはどうですか? 有名なレストランを回ってグルメを堪能するのは?

 自然に飛び込むのもいいですね。山に一人で登ってみたり、温泉をめぐってみたり、一人旅で海外に行くのもいいですね。とにかく、興味がなくてもとりあえず飛び込んで、なるまさんが熱中できることを見つけるのです。

 今、なるまさんは「他人に嫌われないようにしよう」ということが一番、熱中することになっています。

 それ以上に楽しいことをひとつでも見つけられれば、なるまさんは、一番大切なことは「他人の評判」ではなく「自分の気持ち」ということを学習します。それは、とても貴重な学習です。

 その感覚をゆっくりと積み上げていくのです。

 例えば、なるまさんが山登りにはまって、毎週末、あちこちの山登りを楽しむようになるとします。

 ずっと一人だったのに、ある時から、一緒に登る人ができたとします。つい、その人に嫌われないようにと考えるかもしれません。でも、そう思う前に、「次はどの山に登ろう?」「どの山が大好きなんだろう?」という自分の感情に集中するのです。山登りに行ったら、周りの人を気にするのではなく、目の前の風景を楽しむのです。山の匂いや風、土の感触、小鳥のさえずりを楽しむのです。

 その感覚に集中すれば、一緒に行った人を気にする気持ちは、だんだんと小さくなってきます。

 なるまさん。否定形を乗り越えるためには、そのことを考えるのではなく、まったく違う肯定形を見つけること。それが僕は一番だと思っています。

 なるまさん。部屋を出て、楽しいこと、探しにいきませんか?

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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