本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)

【鴻上さんの答え】

 なるまさん。一歩、前進しましたね! 「嫌われないよう周りに合わせることを一番に考えて」きたけれど、「それだと結局はいいように人から使われる」し「そんな私を嫌う人がいる」ということに気付いたんですね!

 そして、その原因が、「子供時代に親から肯定された経験がないからだと分析」したんですね! すごいじゃないですか!

 さらにすごいのは、「もう終わったことなので親を恨んで立ち止まることはしません」という考え方です。『ほがらか人生相談』に送られてくる相談では、親をずっと恨んでいる人もたくさんいます。それはしょうがないことですが、過去しか見てないと、未来は広がりません。

 なるまさんは、過去を気にしながら、前を向こうとしているんですね。それは素晴らしいことです! 僕は本気で言ってますよ。42歳で気付けて、本当に良かったと思います!

 なるまさんは、今48歳ですから、6年間、「嫌われないようにしよう」と思うことをやめたんですね。

 でも、なかなかうまくいかないんですね。

「皆から好かれることはまず無理だから」というのは、素敵な考え方ですね。

 私達は、「皆から好かれる」なんてことはないですね。

 なるまさんのことを好きな人もいれば、嫌いな人もいる。

 僕も、先月の相談で「共同親権」について自分の考えていることを書いたら、賛成してくれる人と反対する人の言葉が僕のSNSに殺到しましたね。反対する人は、まあ、誹謗・中傷を書いてくる人が多かったですね。でも、だからと言って、自分の意見を変えるわけにはいきませんからね。

 さて、なるまさん。

「人間は否定形を実行できない」という言葉、ご存じですか? 演劇界では、知る人ぞ知る言葉なんですが、「否定形は演じられない」という言い方になります。

 例えば、目の前に「あなた」がいたとして、「あなたと話さない」という演技は実行できないのです。

 やってみればすぐに分かりますが、演出家から「『あなたと話さない』という演技やって」と言われたら、結局、あなたの周りをウロウロしながら「話さないぞ」「絶対に話さないぞ」なんてブツブツ言うだけです。変な人ですね。

「演じられない否定形」を、「演じられる肯定形」にする必要があるのです。

 例えば、「あなたと話さない。だから、この部屋を出て行く」とか「あなたと話さない。だから、テレビを見る」とか「あなたと話さない。だから、他の友達と話す」というふうに、否定形を、実行できる肯定形に変えないと演じられないのです。

「絶対にピンクのワニを想像しないで下さい」なんて否定形を頭の中で実行するのも無理ですね。「絶対にピンクのワニを想像してはいけない!」と言われた瞬間に、あなたの頭にはピンクのワニがどどーんと現れるでしょう。

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