叡王戦第2局、対藤井戦で初勝利を挙げた伊藤匠七段=2024年4月20日、石川県加賀市

注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年5月13日号より。

【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん

*  *  *

 4月20日、石川県加賀市でおこなわれた第9期叡王戦五番勝負第2局。挑戦者・伊藤匠七段は堂々たる指し回しで藤井聡太叡王に競り勝ち、1勝1敗のタイとした。

 今回の伊藤の白星は、いろいろな意味で値千金の価値がある。伊藤は引き分け1(持将棋の名局)をはさみ、初対戦以来11連敗中だった藤井に初勝利をあげた。藤井は2002年7月、伊藤は同年10月生まれ。藤井はデビューから7年半にして、あとから生まれた棋士に初めて敗れた。

 藤井は23年に史上初めて全八冠を制覇。その一局も含めて7カ月もの間、タイトル戦で負け知らずだった。藤井がもし今回も勝っていれば、大山康晴十五世名人が1961年から62年にかけて達成したタイトル戦17連勝という歴代1位の大記録に並んでいた。

 藤井の記録を熱心に追いかける観戦者とは対照的に、藤井自身はその点、まったく執着がない。「仕方ないかなと思っています」と、コメントもさらっとしたものだった。

 伊藤は昨年度、最多対局賞(69局)と最多勝利賞(51勝)を受賞。竜王戦と棋王戦で藤井に挑戦した点などが評価され、優秀棋士賞にも選ばれた。同い年でもあり、藤井の「ライバル候補」の本命だ。

 藤井−伊藤とよく対比されるのが、羽生善治九段−森内俊之九段の関係だ。羽生は1970年9月、森内は同年10月生まれ。羽生よりあとから生まれた棋士で、初めて羽生に勝ったのは森内だった。羽生が実績ではるかに先行したあと、森内は次第にタイトル戦で羽生と好勝負を演じるようになる。現在までの対戦成績は羽生80勝、森内61勝。まさにライバルと呼ぶにふさわしい成績が残されている。

 伊藤が藤井のライバルと呼ばれるには、もう少し白星を積み重ねる必要がありそうだ。しかし案外、その日はそう遠くないのかもしれない。(ライター・松本博文)

AERA 2024年5月13日号

著者プロフィールを見る
松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の記事一覧はこちら