英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
* * *
欧州で二つのカンファレンスの禁止がニュースになった。一つ目は、ベルギーのブリュッセル市長が、右翼系カンファレンスNatConの開催を禁止しようとした件だ。警察が会場入りし解散を命じたが、こちらの方はベルギーの首相から「容認できない」と物言いがつき、行政裁判所からも不法という判断を下されて、禁止撤回になった。
二つ目は、NatConほど話題にならなかったが、ドイツのベルリンで行われる予定だったパレスチナ支援のカンファレンスの開催禁止だ。同カンファレンスでガザの病院での経験を話す予定だったグラスゴー大学名誉総長の医師はドイツへの入国すら禁じられたという。こちらは、自治体のトップが集会を禁止しようとしたら首相や裁判所にそれを撤回させられたブリュッセルの件とは違い、国家が禁止を命じたのだ。
また、ギリシャの元財務大臣で、左派系政治団体DiEM25を率いるヤニス・バルファキスは、ドイツ内務省から同国内でのいっさいの政治的活動を禁じられたとXに書いた。この禁止には、オンラインでドイツ国外から政治的集会に参加することも含まれているそうだ。
「言論の自由」を重んじる地域だったはずの欧州で、政治集会に解散命令が出たり、政治集会に参加する人の入国が禁じられたりしているのはとても不気味だ。そして、右派も左派も、双方の集会がその標的になっている。いわゆるキャンセル・カルチャーや、ネット上での小競り合いと違ってこれが本当に恐ろしいのは、自治体や国といった行政の側が警察を使って集会を解散させようとしたり、為政者にとって都合の悪い意見を言いそうな人々の入国を拒否したりしているということだ。
政治的主張の異なる相手を黙らせる文化を為政者たちが利用し始めたらこういうことになってくるのだ。発言の場を奪われた政敵を見て喜んでいると、それを見た為政者が「奪っても許される」と思って集会の自由や移動の自由まで躊躇せずにふみにじるようになる。なにしろ、お上には「公共の安全のため」という印籠があるのだ。党派は何であれ、現状を変えたいと思う人々には苦難の時代になる。
※AERA 2024年5月13日号