川は干上がったまま、足元の地面が沈み続けるのを見過ごすのだろうか。テヘランに戻った私は、水問題を担当する鉱工業省に取材を依頼した。指定された時間に庁舎の執務室で待っていたのは、副大臣のアリレザ・シャヒディだ。彼自身、地質学の専門家で博士号を取得していて、国内で地盤調査した結果をまとめた著作もある。現状の問題について尋ねた。

 「我が国で消費される水のうち9割は農業用ですが、そのうち半分は有効活用されていません」

 ダムや貯水池、用水路や送水管を造る。それらを修繕する。いずれも必要なことなのに予算が限られ、十分に手をつけられていないそうだ。イスファハンで地盤沈下が深刻になっている理由も尋ねた。

 「行政の許可を取らずに井戸を掘り、違法に地下水を汲み上げているからです。ただ、それはイスファハンに限った話ではなく、実は国内全域の問題なのです」

 国として把握できている分だけでも、国内には井戸が90万カ所あり、うち4割超は違法に掘削されたものだという。

 「イラン国内の全31州にある平野部609カ所のうち400カ所で地盤沈下が起きています。沈下が進む深さは平均すると年5〜6センチです」

 イスファハンでは平均の3倍、年18センチに達するといい、副大臣は「あの地域は本当に危機的な状況です」と述べた。イスファハン以外の地域でも地盤沈下に伴う道路の歪みや建物の傾きといった例は報じられている。政府は事態の悪化を防ごうと、ひとまず違法な井戸を塞いでいるそうだ。

 水不足の対策はないのか聞くと、副大臣は「海水を淡水化する技術の成否が、私たちの将来を左右します」と答えた。イランは南西部でペルシャ湾、南部でオマーン湾に面している。そこで採取した海水の塩分を取り除けば、飲み水など日常で使えるようになる。そうして処理した水を内陸部に送る計画があり、2019年頃から進めているそうだ。

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