ありそうでなかった、「損得」感情の由来について探る、聞き取りルポルタージュだ。
 著者は、最寄り駅からタクシーで帰宅するとき、「駐車禁止の標識」を目印に停めてもらうことにしている。アパートの前まで乗車するとワンメーター(710円)を超えるからで、妻から常々「貧乏くさい」と言われるという。本書はこんな告白から始まる。
 取材対象の人選が際立っている。節約を「エコ」と言い換える主婦、鑑定価格の秘訣は「エイヤっ!」だと明かすベテラン不動産鑑定士、男性候補を「案件」とよぶ婚活中のOL……。「損したくない」をキーワードに日本人の思考と行動に考えをめぐらせていく。
 家電についての章では、テレビの大画面化や頻繁なモデルチェンジ、短い修理期間などが取り上げられる。家電の寿命について著者が質問した際、無愛想だった町の電気屋さんの店主が、晴れやかに語り出す様子が面白い。
『五輪書』、二宮尊徳、『古事記』などからの引用もあり、800円で安心と笑いが得られるなら高くはない?

週刊朝日 2015年11月20日号

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