2022年12月、提供した精子から生まれた子どもたちと交流するディランさん(オーストラリア、シドニーで/ディランさん提供)

精子バンクの「トリッキー」な契約書

 1人の男性から誕生する子どもの数について、ザイテックスの契約書はどうなっているのか。

「契約書には1人の男性の精子から生まれる子どもの数のリミットは40人とは書いていませんが、最初に私がリミットを聞いたときに、〈40ファミリーと言われたこと〉が書かれています。バンク側が責任を逃れられるトリッキーなやり方です」

 ディランはザイテックスを相手に訴訟を起こそうと複数の弁護士に相談したが、成功報酬制で引き受けてくれる弁護士は見つからなかった。成功報酬であれば、勝訴した際に受け取る賠償金の3分の1を弁護士に払えばいい。だが、成功報酬でない場合、弁護費用は実際の裁判にならないとわからない。アメリカの訴訟費用はけた外れになる可能性がある。ディランは訴訟をあきらめた。

 ディランは増えていく子どもの数を自分なりに理解しようとした。当時付き合っていた女性や他のドナーにも相談したが、アドバイスできる人はいなかった。

子どもたちが出会う事態も

 2020年、いくつかの家族から連絡を受けて初めて、自分が関わったことの重大さを理解し始めた。ザイテックスから、自分の精子がオーストラリア、カナダ、イギリス、イスラエル、中国に輸出されたことも教えられた。アメリカでは少なくとも9州にわたっている。

「イスラエル以外のそれぞれの国には、すでに子どもがいることもわかりました。中国では1人が誕生しています」

 ディランの精子で生まれた子どもたちが出会う、という事態も起こり始めた。

「カナダでは同じ器械体操練習用のジムで、私の精子から誕生した子ども同士が偶然会ったことがあります。共通の友人がいた子どももいます。精子バンクから精子を買って子どもを持つには、一定のお金がかかります。社会経済的地位が同じような人は地理的にも似たようなところに住む傾向があるので、そういうことが起こります。また、レズビアンカップルが子どもを育てる場合、それが異例であるとは思われない、安心して暮らせる地域に住みます。だから最終的に同じ都市に落ち着く可能性が高いのです」

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