インタビューに応じるディランさん(撮影/大野和基)

どこに住んでいるのか

 実際、カナダのトロントには5家族、その中には同じ近隣地区に住んでいる家族もある。

 近隣地域に同じ精子から誕生した子どもがいると、将来、近親相姦や近親婚になる可能性が出てくる。イギリスでは過去、実際に起こったケースもある。

「それを避けるためにも、同じ男性から誕生した子どもを追跡する、データベースが必要だと思います。精子バンクから買った精子で生まれた人は、同じ男性から生まれた子どもが地理的にどこに住んでいるか知る必要があります」

同じ精子から生まれる子に上限は?

 アメリカの多くの精子バンクはASRM(American Society for Reproductive Medicine: 米国生殖医学会)のガイドラインに従っているという。それによると適切な分布で人口80万人に対して、同じ男性の精子から生まれる子どもの数は25人までならいい、という。

「そのガイドラインが正しいなら、私の精子からアメリカで1万人の子どもが、世界中でいうと27万5千人の子どもが誕生してもいいことになります。これは明らかに道義に反します。40年前に作られたガイドラインは、現在のグローバル社会には通用しません」

 リミットを設けている国もある。例えばイギリス、カナダ、オーストラリアでは10家族がリミットだ。だが、アメリカにはいまのところ、その数を規制する法律はない。つまり1人の男性の精子から生まれてくる子どもの数は無限ということになる。

 1人の男性の精子から生まれる子どもの数は世界中で、「5人から10人であるべきではないか」とディランは言う。いま、彼は、ガイドラインのリミット数を適切な数に減らすよう、精子バンクを説得しようとしている。

(ジャーナリスト・大野和基)

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