アライグマを警戒する理由
SFTSは、原因となるウイルスを持ったマダニに吸血されることで感染する病気だ。国内では海外渡航歴のない人の感染が13年に初めて確認され、今年1月末までに939の症例が報告されている。
発熱やおう吐、下痢などの症状が現れ、重症化すると肝腎障害や多臓器不全を起こして死に至ることもある。有効な薬やワクチンはなく、死亡率は20%にものぼる。
マダニは、イノシシやシカ、タヌキなど、さまざまな動物から動物に移り、SFTSや日本紅斑熱を広める。そのなかでもアライグマを特に警戒するのには理由がある。
「日本に定着したアライグマは、人家の屋根裏で子育てをするという非常に大胆な行動が確認されています。つまり、人間のすぐ近くにマダニを運ぶという点で、アライグマが一番リスクが高い動物だと考えています」(横山さん)
アライグマの大きさはタヌキとそれほど変わらないが、筋肉が非常に発達しており、噛む力や手足の力がとても強い。そのため、人家に少しでも隙間があると、そこを破壊して、内部に侵入してしまうのだ。
徐々に東へ広がるSFTS
そして、アライグマはSFTSウイルスへの抗体を持つことができ、感染しても死ににくい。つまり、SFTSウイルスにとってアライグマは、格好の「運び屋」なのだ。
実際、SFTSウイルスに感染したアライグマは、近年増えていると見られている。
特定外来生物の駆除で捕獲したアライグマの抗体検査を実施し、SFTSの拡大状況を調べてきた国立感染症研究所獣医科学部の前田健部長によると、西日本のある地域では10年ごろから、ウイルスに感染したことがある「陽性」のアライグマが見つかり始めた。そして、13年度には陽性率が24%に上昇し、アライグマ経由かは不明だが、ウイルスに感染した人も見つかった。そして18年度にはアライグマの陽性率が55.8%にまで増加したという。
まだ東日本では、ウイルス陽性のアライグマは見つかっていない。しかし、SFTSと診断された患者は、西日本から東日本に広がりつつある。