「ドライブ・マイ・カー」から3年。第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した濱口竜介監督の新作「悪は存在しない」が26日から公開される。濱口監督が作品に込めた思いとは。AERA 2024年4月22日号より。
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──「悪は存在しない」の舞台は長野県の山間の町。主人公の巧(たくみ、大美賀均)は小学生の娘・花(西川玲)と二人、沢の水を汲み薪を割り、自然とともに穏やかに暮らしている。しかしある日、町にグランピング施設を作る計画が持ち上がる。
濱口竜介(以下、濱口):はじまりは「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当していただいた石橋英子さんから「ライブパフォーマンス用の映像を作ってほしい」という依頼をもらったことです。はじめはどういうものがよいかわからなくて、石橋さんがよく使う音楽スタジオが山梨にあるのですが、その自然のなかに行ってみれば石橋さんの音楽と調和するものができるのではと思いました。そこでリサーチをしていて、だんだん普段どおりにつくればいいと思えてきたとき、その土地で「グランピング施設の説明会」と近しい出来事があったと聞いて「あ、これかもしれない」と物語を書き始めました。
──劇中のグランピング施設建設はコロナ禍で打撃を受けた芸能事務所が政府からの助成金を得て行うという設定だ。森の環境や水源を汚しかねないずさんな計画に町民たちは揺れ動く。地方と都会、自然と人間。共存やバランスの難しさが、美しくも不穏な音楽とともに描かれる。
自然と調和しない状態
濱口:都会と地方の対立や分断をことさらに描こうと思ったわけではありません。ただ、自分もどちらかといえば都会の側にいてうまくいかないことが分かっているにもかかわらず物事がどんどん進んでいってしまう状況が身のまわりに溢れていると感じています。もっとも身近な映画業界で言えば「このスケジュールでは撮れない、寝られない」とわかっていてもそれがまかり通る状況です。