山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「人口妊娠中絶に関するアメリカと日本の現況」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 ちょうど1週間前の4月10日、私には衝撃的なニュース(※1)が飛び込んできました。アメリカの西部アリゾナ州の最高裁判所は、「人工妊娠中絶をほぼ全て禁ずる1864年制定の法律の効力を再び認める判断を下した」というではありませんか。

 アリゾナ州が州になる前の、南北戦争時代の1864年に制定されたこの法律は、妊娠中の人の命を「救うために必要な」場合を除き、中絶提供者には2年から5年の懲役刑が科せられるというもの。

 ことの発端は、連邦最高裁判所が2022年6月、中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆したことに遡ります。この決定により、州政府は中絶を厳しく禁じる法律の導入が可能になり、アリゾナ州では、妊娠15週以降の中絶を禁ずる州法が成立。これにより、160年前の法律は事実上無効化されたのか、はたまた休眠状態にあった160年前の法律が有効なのか、何カ月も議論されることになったといいます。

 アリゾナ州最高裁は、1864年制定の法律の施行は14日後(4月23日)からであるとし、この法律がどのように施行されるか、また、妊娠中の人の命を救うために中絶を認める例外規定によって、どれほど小さな枠が残されるのかなど、詳細はまだ明らかになっていません。

女性の身体に対する影響は?

 アリゾナ大学の臨床法学教授であるスージー・サーモン氏は、「この法律の施行により、医師は、例えば女性の生殖能力を維持するため、女性の健康を維持するため、女性が永久的な障害を負う可能性を防ぐためなど、治療が必要であると判断される場合に、治療を差し控えなければならないという耐えがたい立場に置かれることになる」といいます。

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