映画祭では、あまり脚光を浴びてこなかった世界の商業作品を、日本という世界最大級のアニメ市場関係者にも注目させる狙いがある。一方で、「君たちはどう生きるか」の作画監督・本田雄さんが蕗谷虹児賞を受賞するなど、既に著名となっている作品への表彰も忘れていない。
映画祭のイベントで登壇した、「ガンダム」シリーズ生みの親として知られる、富野由悠季監督も、「各国のコンペ作品の顔ぶれを見ても一律でなく、実に多様的。日本では子ども向けから始まったアニメが、文芸の域に達していると言えるのではないか」と評価する。
人材育成、地方創生も
映画祭の二つ目の目的が、人材育成だ。映画祭の運営には新潟市で開志専門職大学やアニメ・マンガ系の専門学校を手がけるNSGグループも関わっており、業界を目指す学生の学びの場にもなっている。地元だけでなく、国内外から40人の学生らを無償で招待し、監督やプロデューサーの講義を受ける「新潟アニメーションキャンプ」も開講している。40人中20人を東アジア在住者が占める。
三つ目の目的が、地方創生だ。新潟では元々、赤塚不二夫や高橋留美子など多くのマンガ家が輩出してきた関係から、「新潟市マンガ・アニメ情報館」や「新潟市マンガの家」といった専門の文化施設が複数ある。行政では「新潟市マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」が2012年から進められている。「がたふぇす」と呼ばれるアニメイベントも10年以上続いており、映画祭期間中に同時開催された。
2回目の映画祭を終えて、フェスティバル・ディレクターを務める井上伸一郎さんは、「コロナ禍の収束もあり、海外からの来場者が特に増えた。新潟発の世界的なイベントに来年以降も押し上げていきたい」と話す。
海外から訪れた人の中には、日本語でやり取りできる人が珍しくないのも特徴だ。日本語が“標準語”となっている世界でも数少ない分野として、アニメの多様性の確保は「日本発」国際映画祭の責務でもあるだろう。(ライター・河嶌太郎)
※AERA 2024年4月22日号