叔母が40代なかばで死んだとき、のこされた従弟は「幽霊になってでもいいから、お母さんにまた会いたい」とつぶやいた。やんちゃ坊主だった彼だけに、周囲の涙をさそった。
 のぶみ作『ママがおばけになっちゃった!』を読んで、そんなことを思い出した。
 ママが交通事故で亡くなり、4歳のかんたろうはおばあちゃんと暮らしている。かんたろうが心配なママは、おばけになってとんでくる。ママにかんたろうは見えるのに、かんたろうからママは見えない。ところが夜の12時をすぎると、ママが見えるようになる。二人はおしゃべりをして……というストーリーだ。
 最初のページからいきなり〈ママは、くるまに ぶつかって、おばけに なりました〉と単刀直入。顔に白布をかけられ、布団に横たわるご臨終の場面。お腹のあたりから、おばけになったママがびっくりした顔で出ている。足はない。ママは「あたし、しんじゃったの?もう! しぬ ときまで おっちょこちょいなんだから!」なんていっている。ママの台詞はちょっと薄い色で印刷されている。さすが、おばけ。
 幼い子どもをのこして母親が死ぬというシリアスな題材を、ユーモラスな文章と絵で描く。テーマは母と子の愛情だ。最後のページには、絵本を読んだ子どもがママに手紙を書く欄、ママが子どもに手紙を書く欄がある。
 7月の刊行以来、絵本としては異例の大ヒット、ベストセラーになっている。同時に賛否両論も巻き起こっているようだ。感動した、共感したという賛辞もあれば、幼い子どもに読ませるのは問題ではないか、実際に母親を亡くした子どもが読んだらどう思うか、といった否定的な意見も聞かれる。
 3歳児以上を対象にした絵本で、肉親の死を題材にしたことは大胆だ。幼いときから死に触れ、死について考えるのも大切ではないか。ママの心配を知ったかんたろうに自立心が芽生えるという展開は、やや教条主義的かもしれないが。

週刊朝日 2015年11月13日号