ディラン  そういう意味では、彼はまだ日本の高校生なんだと思う。

  大谷が野球一筋だという話を聞いた時、僕は「ありえない。何か裏があるに違いない」と疑いの目で見ていたんだ。彼が日本ハムでプレーしていた頃、球団は1年目、2年目の若い選手のために寮を用意していた。その期間が終われば寮を出るのが普通なんだけど、大谷は「練習場のすぐそばだし、食事も出るから」とそこに住み続けていた。高校時代のコーチも、「引っ越せ、彼女を作れ、人生を楽しめ」と言ったらしいんだけど、大谷は生活を変えなかった。

 日本ハムの選手たちがタクシーを拾う場所で、何人かの運転手に、「大谷を乗せたことありますか?」と聞いてみたんだ。「彼はたいてい他の若手と一緒に乗って、いつも野球の話をしている」と言っていた。「どこに連れて行くんですか?」と聞くと、「寮に連れて帰るよ」と。「他の場所に連れて行ったことは?」と聞いても、「ない」って言うんだ。「まじかよ!」と思ったよ。

  野球が好きすぎるんだろうね。彼はお金には興味がない。

 23年の大谷で、最も印象に残っているのは走塁の姿だな。ワイルドカード争いで5、6ゲーム差を付けられているような状況でも、出塁したら本気で走るんだから。シングルの当たりで二塁まで走ったり。その一生懸命な姿勢は、ある意味とても純粋。だからこそ、それを止められる大人の存在が必要だと思う。誰かが彼を抑えないと。日本のやり方は選手を壊してしまうという現実があるから。日本ハムは、幸いなことに、健康面に気をつけてくれる組織だった。高校時代のコーチも彼の将来を見据えてくれていた。だから、彼は比較的よく温存されたまま、アメリカに来られた。

 以前は彼の発言を、「本当にそう思っているのか?」と疑っていた。たとえば、フリーエージェントになることについて、「まだ考えていない」と言ったり。でも彼の言葉を額面通りに受け取ってみると、確かにその通りに行動しているんだ。接戦を落とした時なんかに、「もう忘れて明日のことを考えよう」と言うんだけど、本当にそう考えていると思う。彼ほど前向きに考えるのが上手な人はいないよ。

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