「僕はパトリック(・チャン)、ゆづくん(羽生結弦)、ネイサン(・チェン)と長い時代を戦ってきました。僕の競技者の精神は、ゆづくんとネイサンが現役を退いた時点で難しいものになっていましたが、使命感から2年間なんとか繋いできました。マリニンくんの良い存在でいたいと思いましたが、心から勝ちたいという気持ちにはなれませんでした。それだけゆづくんとネイサンの存在が、僕の中で大きかったということです」
自分と向き合いたい
同じように、宇野の存在が若手にとって大きな刺激だったと言われ、ほっとした表情を見せる。
「そうであると嬉しいですね。この2年、良い成績を出そうが、それに合った嬉しさを感じることがなかったです。僕の存在が、後輩にとってプラスになっているなら、良いなと思います」
唯一の心残りとして、コーチのステファン・ランビエールの名を挙げた。
「ステファンを心から喜ばせるような演技をしたかったな、とは思いますが、後悔はありません。僕は自発的に何かができるタイプではないのに支えてくださった、ステファン、ファンの方、家族、(本田)真凜に、感謝してもしきれないです。ステファンと仲良く話して、自分たちの方針についてしゃべっていきたいと思います」
それは来季に向けてのことか、と問われるとほほえんだ。
「自分ともう一度向き合いたいと思います。去年も一昨年も、競技を続けるかどうか考えさせられました。今後に向けて、しっかり考えていきたいです」
そして、満足そうにこう言った。
「去年の世界選手権が終わった瞬間と今の瞬間では、今の方がすがすがしく、良かったなと思えています」
平昌、北京とも五輪メダルを獲得し、世界選手権も連覇。一時代を築いた宇野が節目の演技を胸に刻んだ。(ライター・野口美恵)
※AERA 2024年4月15日号