私の一番思い入れのあるエピソードは……。
主人公スズ子の弟・六郎に赤紙が来た。六郎は喜んでいた。六郎は徴兵検査に甲種合格。今まで人から褒められたことのなかった六郎は、それを周囲に、両親に自慢した。両親は喜ぶ六郎に「よかったなぁ……さすが六郎や……」と、複雑な笑みを浮かべ声をかける。
入隊前に六郎は東京に住むスズ子の元を一人訪ねる。別れの前夜、六郎は戦争に行くのが怖いと姉に打ち明け泣いた。翌日、六郎は笑顔で姉に手を振った。
姉弟は再び会うことはなかった……。
今、池袋のルノアールでこれを書いている。涙が溢れてきた。緑茶を持ってきた店員が、目を真っ赤にしたおじさんを不思議そうに一瞥する。泣いて悪いか。
笠置シヅ子さんのウィキを観ると、どうやら史実らしい。笠置さんの弟さんは若くして戦死されているという。
六郎帰ってこないかな……とズーッと願っていた。ドラマなんだからこの際史実なんか忘れて帰ってきて欲しい。そう思っていた。最終回まで観たら、やっぱり帰ってこなかった。当たり前か。
私は今でも六郎がひょっこり帰ってくるのではないかと思っている。「ねえやん! いま帰ったでぇ!」と笑顔で帰ってくるのではないか?
六郎は言うだろう。「(飼っていた)亀は元気でおるか? あれ? あんただれ? えー! ねえやんの子? わい、知らないあいだにオジサンになったんか? わいは六郎や。お前、名前は? 愛子? えぇ、名前やなー! 今まで亀の世話ありがとな。これからよろしくたのむわっ!」と。