春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「朝ドラ」。

ブギウギ」が終わった。

 最初から最後までしっかりと朝ドラを観たのは久しぶりだ。

 去年の10月から始まった「ブギウギ」。「あー、また新しいのが始まるんだなー。朝ドラ観るのを習慣づけると案外一日がシャキッとするから、まぁとりあえず観てみるかー」くらいの軽い感覚で見始めた。

 バッチリはまってしまった。

 とにかく主役の福来スズ子を演じる趣里さんの演技、特にクルクル変わる表情に魅了された。あんなに稼働時間の多い表情筋もないだろう。表情筋も冥利に尽きるはず。もしも願いが叶うなら「来世は趣里さんの表情筋になりたい」そう思った。

 で、ロスになった。しかも去年の12月に。まだバリバリやってるのにロス。「来年の3月には終わっちゃうんだな……」という「先取りロス」だ。寂しくて寂しくて仕方ない。だから頭を切り替えた。「そうだ、オレがロスなのに『ブギウギ』はまだやってるんだ!」。ロスなのに観られる。こんなに素晴らしいことはないじゃないの。

 去年の紅白に趣里さんが出るかなあと期待したが、それはなかった。いま思えばドラマの終盤に「男女歌合戦」のくだりがあったので、その必要はなかったのかもしれない。その代わり?なのかお母さんの伊藤蘭さんが出演。木久蔵兄さんの代演に木久扇師匠が来た! みたいな。いや、例えが違うな。せっかく「ブギウギ」の話をしてるのに出てこないでください、木久扇師匠っ!

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら
次のページ
泣いて悪いか