米韓では設計図作成

 米国や韓国では、じっくり考察しながら脚本を固めるのに時間をかける。米国のNetflixは「バイブル」と呼ぶ設計図を、契約書とは別に作成することで知られている。そこには作品の趣旨からあらすじ、登場人物のキャラクター性や相関図、物語の中での行動原理まで示されている。原作者もしっかり監修ができ、作品の世界観を忠実に再現しようという原作へのリスペクトを感じるという。すでに『ONE PIECE』や『幽☆遊☆白書』など日本の漫画は、Netflixで実写化され、成功を収めている。

 日本で原作者の人格を守るにはどうすればいいか。

 西脇弁護士は「著作者人格権が皆のコンセンサス(合意)になっていくことが大事」と語る。

「著作者人格権は、『人格』という2文字が入っているように、人の心の根幹に触れる大事なものだということが世の中に広がり、多くの人のコンセンサスになっていくことが大事。そうなれば自然と制作の現場も変わり、原作を映像化する条件を契約書で明確に決めるようになったり、原作者が自由にものを言えるようになると思います」

 元テレビ東京プロデューサーで『混沌時代の新・テレビ論』の著書もある、桜美林大学芸術文化学群の田淵俊彦教授は、テレビ局における人材不足とリテラシー不足の「二つの不足」の改善が必須だと説く。

「人材不足の改善には、クリエイターを大切にして待遇面を改善することで現場を目指す人を増やし、人材の流出を防ぐことが求められます。そしてリテラシーを高めるには、想像力とリスクマネジメント能力を高める必要がありますが、それには教育が重要。それも入社してからでは遅く、大学など教育の現場で教えていく必要があります」

 課題は多い。だが、これからも実写化されるであろう多くの漫画が、原作者の人格として尊重されることを願いたい。漫画は、日本が世界に誇る文化だ。(編集部・野村昌二)

AERA 2024年4月8日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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