この時、プロデューサーと編集者との間に“著作権部”というフィルターが1枚入ることで、原作者の意図や思いがプロデューサーに完全に伝わらない場合があり得ると田淵教授。
「逆に、プロデューサーの意図や思いが原作者に伝わらない可能性もあります。しかも『伝聞』なので、どうしてもニュアンスが違って伝わることもあります」
ただ原作トラブルは「セクシー田中さん」が初めてではない。以前から、漫画や小説の原作との内容の違いを巡るトラブルは起きている。
例えば、2006年にフジテレビで放送されヒットした「のだめカンタービレ」。当初、TBSで放送されるはずだったが、主演が原作とは違う人物になるなど大幅に改変されたことで原作者が難色を示し、撮影直前に白紙撤回となった。その後、フジテレビが原作者を口説き、ドラマ化が実現したという。
「セクシー田中さん」の問題が起きて以降も、複数の漫画家がSNSで、過去の映像化を巡り制作サイドに意見を伝える機会を与えられなかったなど「不信感」を表した。
田淵教授によれば、原作を映像化する以上、制作者は原作を尊重し原作者をリスペクトしている。原作の世界観を無視するなど、「原作軽視」の考えは決してないという。ただし、原作をそのままドラマ化することは不可能で、原作の結末が暗い場合はハッピーエンドに変えたり、登場人物が多すぎて視聴者が覚えきれない心配がある時は登場人物を間引かざるを得ないことはよくある、と言う。
「そうした場合は必ず、原作者の許諾を取ります。これは基本です。それでも、原作者がないがしろにされていると感じるのは、ほとんどがディスコミュニケーション、つまりコミュニケーションの不足にあります」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年4月8日号より抜粋