芦原妃名子さんが亡くなったことを受け、小学館第一コミック局が出した声明。著作者人格権の重要性を強調している(写真:写真映像部・佐藤創紀)

セクシー田中さん」の問題で注目された「著作者人格権」。その権利が奪われ、なぜ軽視されるのか。原作トラブルが起きる背景には何があるのか。専門家に話を聞いた。AERA 2024年4月8日号より。

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 奪われたのは、「人格」だった。

 日本テレビ系でドラマ化された漫画「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子(ひなこ)さんが1月末に亡くなった。享年50。自殺だったとみられている。

 芦原さんは亡くなる数日前、自身のXで、同作のドラマ化を巡り原作が「大きく改変」されたなどと明かしていた。2月8日、出版元の小学館第一コミック局は、芦原さんの立場を守ることができなかったとして、次のような声明を発表した。

「著者の皆様全員が持っている大切な権利、これが『著作者人格権』です。今回、その当然守られてしかるべき原作者の権利を主張された芦原先生が非業の死を遂げられました」

 今回の一連の問題で注目されたのがこの「著作者人格権」だ。

 聞き慣れない言葉だが、テレビ朝日法務部長を務めた西脇亨輔(きょうすけ)弁護士は次のように説明する。

「著作権法の大きな柱の一つで、原作者の心を守る権利。漫画も文学も映像も音楽も、著作物は原作者の考え方や価値観、思想がこもった『人格』そのもので、絶対に侵されてはいけません。英語で『moral rights』と言い、モラルが根幹にある権利です」

原作者と直接会うべき

 著作権法にはあと一つ、「著作財産権」が大きな柱としてある。こちらは作品の利益を守る権利で、他の人に売ることもできるし、作者が亡くなれば、遺族が相続もできるという。

「しかし、著作者人格権は、放棄することも誰かが相続することもできません。ただ1人、作者だけの心の中にある権利。それくらい、かけがえのないものです」(西脇弁護士)

 その絶対的な権利が奪われ、ないがしろにされるのはどうしてか。西脇弁護士は言う。

「原作のドラマ化は、原作者の考えを確認するのが一丁目一番地。それはドラマのプロデューサーが真っ先にやらなくてはならない仕事です。人格に触れる以上、プロデューサーは間に入る出版社や代理人に任せ切りではなく、極力、原作者と直接会ってコミュニケーションを取るべきです」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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