エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復してきた小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 閉経したら、赤飯を炊こう。いろんなところで言って歩いています。40年以上も続いた毎月の出血とそれに伴う不調や不快とついにおさらばできるのですから。ホルモンの波に振り回される生活からの解放を祝うのです。

 1度目の赤飯では、何がめでたいのか?と居心地の悪さを味わった人が多いんじゃないでしょうか。初潮を祝うのは、本人のためではありません。子どもを産める女体がこの世に一つ増えたことによって利益を得る人々のためのお祝いです。つまりは親のために、一族のために、ムラのために、お国のために、人類繁栄のために、子どもを産める女が一人増えたことを祝う赤飯。当人は「ええっこれから毎月股間から出血するの? 嫌すぎ」と突然の変化に驚き当惑しているのに、それを周囲に公表され、しかも赤い飯まで食わされるという軽くトラウマになるような体験です。

生理現象は生きている証し。自分の体のことは自分が決めていい(写真:gettyimages)

 世の中はそうして初潮を勝手に祝っておきながら、血の穢(けが)れだと言って除け者にしたり、生理の話はするもんじゃないとかエロいとか、後継ぎを産めとか、産もうとしないのはわがままだとか、1人じゃなくて3人産めとか、ピルなんか飲むなとか、まるで女性の生殖器はみんなのものだと言わんばかりにあれこれ口を出します。そして生殖能力が衰える年齢になると期限切れとか用済みだとか言って軽んじるのです。冷静に考えて酷(ひど)くないですか。無礼この上ないですよね。生理現象は恥ではなく生きてる証拠だし、自分の体のことは、自分で決めていいんだから。

 閉経は、更年期症状を伴う大きな変化。いろんな不調も出るけれど、月経と世間の干渉から自由になり、ついに自分の体を自分の手に取り戻せるのです。めでたいこと限りなしです。今度こそ、自分へのお祝いに、赤飯を炊こう。初潮にはプライバシーの尊重を、閉経には祝福を。

AERA 2024年4月8日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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