圭人:僕は、幼い頃に父が出演する舞台を観て、こうした世界があることを知ったんです。「あそこには何があるのだろう」という興味がずっとあって。「舞台に立ちたい」という思いを抱いていた時期はそれなりに長かった気がします。その後、アメリカに留学し、本格的に演劇を学んで。子どもの頃、父から舞台の話を聞いては「こんなにも熱量が必要なものなのか」と衝撃を受けました。控室に行っては、挨拶や礼儀の大切さも学びましたね。

──互いをよく知るからこそのやりやすさと、やりにくさ。そうしたことを考えることは、まったくないという。

過去を振り返らせる力

健一:舞台上ではセリフを口にしているわけだから、それをいかにきちんと伝えられるかが大切。それは他人であろうと、旧知の仲である人であろうと変わらないですね。一つの作品に参加するということは、毎回がゼロどころかマイナスからのスタート。読んだこともない物語を作り上げるわけだから。「いままで色々な舞台をやってきたから大丈夫だろう」と思っても、全然大丈夫じゃないんですね。基礎から作り上げないと、みんなに追いついていけない。「馴れ合い」や「安心感」といったものがまったく通じない世界なんです。

 舞台は、基本的には作品を初めて観る人を対象にしているから、若い方にも高齢の方にも、そして子どもたちにも伝わるようにするにはどうすればいいかを考えなければいけない。だから、心の動きなど、見えない部分が大事だったりする。

圭人:フロリアン・ゼレールの台本で素晴らしいな、と感じるのは、すごくシンプルな言葉で描かれながらも、演じる自分の過去を振り返らせる力があるということ。僕は最初、英語で台本を読んだのですが、日本人の自分が英語で読み、フランスの家族の話に共感するってすごいことだと思うんです。ニコラの悩みや他人事には思えない感情をお客さんにもちゃんと感じてもらいたい。僕自身が台本から受け取った感情を、お客さんに伝えていくことが役者としての仕事であり、いま僕がしなければいけないのは「言葉を届けること」なのかなと思っています。

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