「映像化が決まると、二次使用について契約する案件が膨大に増えます。出版社と作家とのあいだで利益相反することもありますから、やはり作家は編集者まかせにせず、漫画家としての個人の権利を守ってくれる弁護士を雇うべきだと思います」
2012年に公開された映画「テルマエ・ロマエ」は興行収入が58億円の大ヒット作となったが、ヤマザキさんが受け取ったのは、原作使用料としての100万円。だがヤマザキさん自身に58億円が入るかのように誤解する人が続出した。
「誤解をとく意図もあって、あるテレビ番組で『私が受け取ったのは使用料だけ』と話したら、大騒ぎになってしまいました」
ヤマザキさんの問題提起は使用料の額ではなく、漫画家が必要な説明を受けないまま物事が進んでいく、業界のありかたを問うもの。
気づいたらチベットに
この発言が騒動になったとき、SNSのDMに見ず知らずの漫画家やクリエーターから「自分は著作料すらもらっていません」というメッセージが届いたが、彼ら自身が声を上げることはなかった。
「イタリアでの留学時代、15世紀の画家たちが依頼者とどのような契約を交わしていたのか調査したことがありました。当時は公証人が、画家と依頼者の間で交わす契約書や法的文書の作成を請け負い、作品の納品期日から使用する画材や顔料など、具体的な条件を契約書にまとめ、文書の適法性を証明するわけです。ルネサンス美術が繁栄したバックグラウンドには、そうした公証人たちの存在があったのです」
実写版「テルマエ・ロマエII」では脚本の内容があまりに自分の世界感とかけ離れていたことで、ヤマザキさんは茫然自失となった。
「試写会も途中で出てきてしまった。でも許諾をしたのだから仕方がありません。会う人から『ヤマザキさん、「テルマエ」を漫画化したんですよね、すごいですね』などと言われて苦笑するしかなく(笑)、映像化がどんな副作用をもたらすのか、頭では分かっていてもなかなかつらくて、気づいたらチベットにいました(笑)」
その後、Netflixでのアニメ「テルマエ・ロマエ ノヴァエ」(2022)で、ヤマザキさんはシリーズ構成・エグゼクティブプロデューサーとして、作品全体に関わった。そういった経験からわかったこともある。