漫画は世界的に影響力がある日本の一大産業だが、漫画家の立場は強いとはいえない現状がある。漫画家で文筆家のヤマザキマリさんに自身の経験を聞いた。AERA 2024年4月8日号より。
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漫画が原作の映画やテレビドラマは今や当たり前の世の中だが、原作者はどこまでそこに関与することができるのか。
漫画だけでなく文筆家としても活躍するヤマザキマリさんも『テルマエ・ロマエ』(以下、『テルマエ』)が大ヒットしたことで、想定外の事態に巻きこまれた。
今よりもさらに著作権やクリエーターの権利について一般的な理解が遅れていた2012年に、ヤマザキさんはどのような経験をしたのか。自身の経験を踏まえて今、「影響力のある作品を生み出す作家がやるべきこと」を、どう考えているのか。ヤマザキさんに話をうかがった。
「『テルマエ』は当初同人誌に載せるつもりで描いた作品でしたが、2008年から商業誌で連載され、コミックスが発売されるとたちまち増刷されるようになりました」
巻数を重ねるごとに『テルマエ』はさらに部数を伸ばし、2010年の半ばには映画化が決まった。
膨大な契約作業が
漫画やエッセイなど、仕事の締め切りに追われる中、契約書をじっくり確認する時間などはない。実写化の許諾も編集者に促されるまま捺印をしたが、その後、自分の生み出した世界がどんどん形を変えていくのを見て驚いたという。「漫画が売れるというのはこういうことなんだ」とあれこれ考えるのを諦めた。
映像化される作品が連載中だと、漫画を描きながら膨大な契約作業に向き合うことになる。慣習的に日本の漫画家は出版社に著作権の管理をまかせることが多い。
「些細な事柄でもすぐに弁護士を立てるイタリア人の家族からは『契約書というものは、通常叩き台の段階から弁護士を介してやりとりするもの。君はどうかしている!』と猛烈に責め立てられました」
家族との関係も険悪になり、体調も崩して入院をしたのを機にヤマザキさんは弁護士とマネジャーを雇った。
エージェントが介在する海外と違い、国内の出版契約は作家個人と出版社が結ぶため、曖昧になる部分も多い。