依存症ではない人でも、ギャンブルをすると脳にドーパミンという快楽物質が分泌されるのですが、ギャンブル依存症に罹患(りかん)すると、ギャンブルをやり続けるうちに、このドーパミンが機能不全を起こします。脳の機能が変化して、ギャンブルをしていないときはドーパミンが分泌されず、落ち込んだ気分になってしまいます。そのため、気持ちを上げるための「薬」のようにギャンブルを繰り返すようになってしまうのです。
――なぜうそをつくという症状が出るのですか
田中 借金を取り戻すためにギャンブルをやるしかない、という強迫観念にかられた精神状態に陥っているからです。追い詰められていますから、ギャンブルをやるためにはどんなうそでもつくようになり、そのうそがどんどんひどくなります。
――例えば、どのようなうそを?
田中 「お金にだらしない友人に金を貸したから、今月のこづかいがなくなった」や、「仕事で大きなミスをして穴埋めをする金が要る」など、いわば「家庭内詐欺」を繰り返している状態ですよね。
――水原氏は取材に対してうそをついた形になりますが、これも依存症の症状でしょうか
田中 その通りです。家族以外にも、職場や友人など、あらゆる場面でうそをついてしまうのです。
――本人はうそをついている自覚がないのでしょうか
田中 自覚はもちろんありますが、もはや自覚の有無を問う精神状態ではありません。依存症の当事者は借金を取り戻そうと、とにかく必死なんですよ。借金を取り戻すにはギャンブルをやるしかないんだと、とりつかれたように、必死にボールを投げ続けている精神状態の中で、うそが重なるのです。
――病気であることが浸透しつつはありますが、それでもまだまだ「性格に問題があるから」「意志が弱いから」などと思われがちです
田中 性格や人間性の問題ではなく、まったくの誤解です。「勝った時の快感が忘れられないんだろう」などと言う方もいますが、依存症者は、もはやそのような精神状態にはありません。勝ったとしても「こんなもんじゃ借金は取り戻せない」と思ってしまうし、勝とうが負けようが、とにかくギャンブルをやり続けるしかないんだ、となってしまいます。
水原さんもそうかもしれませんが、依存症の末期になると、勝っても負けても感情が動かない。ずっと落ち込んだまま、薬を求めるかのようにギャンブルを繰り返すのです。