春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「桜前線」。

 今年はずいぶん桜の開花が遅いようだ。東京の満開の予想が4月4~5日。今年は入学式までもつかもしれない。

 落語家は季節ネタを先取りしてやることが多いが、今シーズンは「花見」の噺をまだそれほど高座にかけていません。3月25日の時点で「長屋の花見」7回、「花見の仇討ち」1回、「花見小僧」1回、「百年目」4回……。

 やってるじゃねえか、と思うかもしれないが「長屋の花見」は毎年春に20回ほどやるので例年よりはずっと少ない。そうだ、「花見酒」を今週TBS落語研究会でやらねばならないのだった。これからさらわねば。

 「百年目」は人情噺の名作だ。「とある大店の番頭が世間を憚りながら向島で芸者・幇間をあげて花見をしてると、その店の旦那に遭遇してしまう。番頭は散財しているようすを目撃され暇を出される(クビになる)のではないかと、一晩怯えて過ごす。旦那は番頭が店の金を使い込んでいるのではないかと、一晩かけて帳簿を調べるが一点の穴もあいていなかった。旦那は番頭を呼び出し、切々と話し始める……」……という主従の間の情を扱った噺。

 すでに4回もやってるのだが、これは3月上席「落語協会百年特別興行」で上野鈴本演芸場において「『百年目』リレー落語」という企画があって前半のみ2回もやった結果。あと2回は地方の独演会でさらってみたのかな。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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「その辺で、切ります?」