県世界遺産富士山課の大谷和生・総括課長補佐は、
「寒いので山小屋のトイレに入って占拠したり、火を焚いたりという悪質な事例もありました。そのため、『5合目で弾丸登山者を食い止めてほしい』という要望が、山小屋やガイドから出ていた」
と話す。
そして県が対策として考えたのが、一定額の通行料の徴収と、夜間に登山道のゲートを閉じることだった。
長崎幸太郎知事は昨年12月、臨時の記者会見で「富士登山における総合安全確保対策」の骨子案を公表。吉田口登山道にゲートを設けて、通行料を義務化する方針を明らかにした。
そして2月の県議会では、夕方から登り始める人が弾丸登山ではないかゲートで山小屋に確認するシステムや、ゲートでの決済方法を検討することを明らかにした。
長崎知事は昨年12月、
「詳細につきましては、地元関係者と意見交換をしながら調整を図って参ります」
と述べていた。
登山者の安全対策の方向性について、地元の関係者も大枠では納得していた。しかし、隔たりがその後、広がっていくことになる。
「弾丸登山」対策のゲート
富士山にかぎらず、登山の安全対策に欠かせないのが山小屋の協力だ。
山小屋は単なる宿泊施設ではなく、登山道の整備、けがをしたり具合が悪くなったりした登山者の救護、山岳救助隊への通報など、山での安全確保の実務を担っている。
そんな「現場」を知る関係者と県との意見公開会が1月、富士吉田市の合同庁舎で開かれた。地元自治体の職員や山小屋の経営者、ガイドなど約30人が出席した。
そこで県から示された案は「通行料3000円」。会議室には驚きの表情が広がり、次々と反対の声が上がったという。
山梨県側の山小屋を束ねる富士山吉田口旅館組合の中村修組合長は、こう語る。
「我々は、通行料は500円、高くても1000円くらいだと思っていた。ゲートはあくまでも弾丸登山者を止めるためのものであって、そこで3000円を徴収すると、協力金と合わせたら4000円にもなる。いくらなんでも高すぎる」