そして、答えは「否」であった。ケネディはトルコに配備していた、ソ連を射程に収めるミサイルの撤去を決断する。実は、フルシチョフも核攻撃が何をもたらすかについて十分に理解しており、キューバからの核ミサイル撤去で応え、危機は回避された。

  もしもケネディが「キューバにソ連の核ミサイル基地発見」というニュースによってもたらされた恐怖の情動と、政権内や軍部から巻き起こる先制攻撃派の意見にのまれて、

「積極果断」な集中系主導の決断を行っていたらどうなっていたか。今、我々が見ている景色は全く違ったものになっていたかもしれない。

  何か重要なことを決める際には、決めるまでに可能な範囲で時間を使い、かつその後しばらく間を置いておき、自分の中に違和感が生じていないことを確認した方が、良い判断ができる場合が多いのである。時に、優柔不断であるとか、後手に回ったといった批判を受ける可能性はあるが、それはあまり気にしない方が良い。時間経過の中で分散系が働いて、その決断が自分の蓄積した豊富な意味記憶と突き合わせて矛盾がないことを確認することが重要なのである。

  そして、一見「優柔不断」な態度こそ、思わぬ記憶どうしが結びつく創造性につながる可能性が高いことを知っておこう。

 直感力を磨くための具体的な習慣とは? 朝日新書『直観脳』で詳述している。

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岩立康男

岩立康男

岩立康男(いわだて・やすお) 1957年東京都生まれ。千葉大学脳神経外科学元教授、現在は東千葉メディカルセンター・センター長。千葉大学医学部卒業後、脳神経外科の臨床と研究を行う。脳腫瘍の治療法や脳細胞ネットワークなどに関する論文多数。2017年には、脳腫瘍細胞の治療抵抗性獲得に関する論文で米国脳神経外科学会の腫瘍部門年間最高賞を受賞。主な著書に『忘れる脳力』(朝日新書)がある。

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