私自身、どちらかというと決断力がない方で、なかなか決められずにぐずぐずしていることが多く、即断即決できる人をうらやましく思ったものだ。しかし今振り返ってみれば、「優柔不断」の行動パターンで良かったとも思うのである。
何かを即決してしまうというのは、まさに集中系しか使っていない判断であり、実はあまり好ましくない判断となってしまう可能性がある。分散系を全く使わずに決断してしまうことの危うさは見てきた通りだ。
「早く答えを知りたい」「早く決めなければ」という顕在意識での思いが強いと、情動に強く後押しされた判断になり、優れた意思決定にはつながらないだろう。分散系によってゆっくりと形成されるはずの直観に対して「早く、早く」の意識が働くと、脳を広く使うことができずに危うい判断につながってしまうかもしれないのである。決める前に、できるだけ分散系を活性化するようにしたい。
「優柔不断」の利点を示す例として、キューバ危機におけるジョン・F・ケネディ大統領の懊悩(おうのう)を挙げてみたい。これは、冷戦下の1962年、キューバにソ連の核ミサイル基地が建設されていることが発見されて、米国がその対応で揺れた13日間の出来事である。
先制攻撃によるキューバの核基地破壊を主張する軍部や、高圧的態度を崩さないフルシチョフ。アメリカ国民を救うには武力行使しかないのか ? 緊迫した状況の中、ケネディは外交をこなし、日曜日には教会のミサに出席したりしていた。大統領執務室を出て環境を変え、この問題と直接関係のない人々との会話をこなし、「キューバ空爆」という選択肢が自分の意味記憶ネットワークに無理なく落とし込める選択肢なのか、ギリギリの確認作業を続けたのである。