シャッターチャンスを感じさせない写真

 移民というキーワードで私が真っ先に思い浮かべるのは、20代の頃に足しげく通ったマレーシアでの体験だ。

 マレーシアは、熱帯の半島だが、ネイティブであるオランアスリー人に加え、北方からやって来た中国系、西方からのインド系で構成されている。また、イギリス領であったことから西欧の匂いもする。親しくなったマレーシア人が、英語、中国語、マレー語を巧みに使いこなすことを羨ましく思ったものだ。

 情報が飛び交う暑い国で、それぞれの人たちが溶け合って暮らしているかというと必ずしもそうではない。思考はもちろん芸術性などにその共通性と相違性が見てとれる。そんな中で私の場合は、食文化に強く個性を感じた記憶がある。多国籍文化の中に、混じり合う部分と混じり合わない部分があることを痛感した。

 金さんの今回の作品「Eye to Eye」「Between Breads and Noodles」は、そんな多国籍な中のデリケートな部分をアートを通じて考察する試みだ。

 面白いのは、金さんが、混沌とした多様性を表現する手段として、動画と静止画を使っていることだろう。動く映像は、極めて日常的で緊張感がないので、今回のテーマに馴染んでいるように思う。これらの写真は、シャッターチャンスを感じさせないので、動画の断片だと考えたほうがよいかもしれない。

 近年は、動画のクオリティーが著しく向上し、動画、静止画が両方撮れる。どちらが作品かという議論も出てきそうだが、金さんの今回の作品は、新しい表現方法として限りない可能性があるように思う。(写真家・今森光彦氏)

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