鑑賞者にとっても新たな契機
選考会に集まってくる作品が、ますます多様化している。なかでも今年度は、これまで写真作品で知られてきた作家による動画作品のエントリーが多い印象を受けた。
AIの技術を使った作品がある一方で、いまは廃れつつある写真技法をあえて用いた作品もあった。すべてが同じテーブル上に並べられ、難しい仕事を背負っていると感じた。技術はあくまで技術でしかない。表現ジャンルはさまざまでも、そこで何が言われようとしているのかという、作家自身の考えやコンセプトを最重要視して、わたしは選考に挑んでいる。
ジャンルや手法だけでなく主題も、エコロジーのような大きなものから、極めてパーソナルなものまで裾野が広い。異なる技法やメディアで表現される興味関心や問題意識に触れ、作品制作を通じて社会と関わったり、向き合ったりする作家たちにいつも勇気づけられる。
金仁淑さんは、ヴィデオ・インスタレーション作品での受賞となった。昨年の恵比寿映像祭で同作品を鑑賞した際、縦に配置したモニターに映し出される子どもたちのポートレートが素晴らしいと思った。動画なのだが、おそらくは動かず立っているよう指示されているのだろう。被写体はうっすら微笑んでじっとしているが、それでも身体が揺れてしまう。風に吹かれた長い髪も揺れるし、小さい子はじっとしていられず、シャツをめくっておなかをぽりぽり掻いたりする。
家庭用ビデオが普及して間もない頃、写真にしか写ったことがない世代の人は黙って立ちつくしていた、そんなことを思い出させる作品で、暗い会場でにやりとした。ビデオ作品だからこそ「写真的なこと」に言及できるなんてと驚いた。
日系ブラジル人コミュニティーを主題にした本作は、移民3世である作家自身のことへと続いている。制作は関わりを生む契機だという彼女の言葉の誠実さにも心を動かされたが、鑑賞者にとっても新たな契機となりうるような、力強い作品だった。(写真家・長島有里枝氏)