「仕事がなかったら母の介護も大変だったと思います。気持ちの切り替えもできましたから。また『証し』で信仰のある方々の取材をするということは、生身の人と日々接してその人たちの信仰について伺うと共に、人生の危機について伺うことでもありました。彼らがどうやってもう一度生きることができたかをお聞きして、ものの考え方がひっくり返ったこともありました」

 最近の最相さんは若い世代を育てることにも力を入れている。選考委員を務める北九州市主催の「子どもノンフィクション文学賞」には15年前の創設時から関わってきた。

「講評は必ず1作ずつ、子ども相手でも一切手加減をせずに行ってきました。15年前に入賞した中3が30歳。新聞で書評コラムを書いている子や絵本を出版した子もいます」

 手間ひまはかかるが、続けるうちに賞も人も育ってきたという手応えがある。まさにノンフィクションの執筆と同じだろう。2022年には兵庫県明石市の「明石おさかな普及協議会」主催「こども海の文学賞」創設に尽力し、選考委員に就任。「ファスト」にはない価値を知る人の、静かな努力がそこにあった。

(ライター・千葉望)

AERA 2024年3月25日号

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