
ただ、日経平均株価は大方の市場関係者の予想を超えるピッチで上昇を続け、史上初の4万円台をつけた。かつてのバブル期のように「泡」となって消える心配はないのか。
ランダースさんは言う。
「PERが、歴史的に見ても適正水準です」
PERは「株価収益率」と言い、純利益に対する株価の比率を表す指標で、株価が「割高」か「割安」かを判断する。PERが10~20倍が適正水準とされ、現在のPERは約16倍。「いまの株価は実力を伴っている」と言う。
「さらに、これからAIへの投資が増えるのは間違いありません。今のままいけば、日経平均株価は5万円を超えてもおかしくありません」
こうして株価バブル期超えで沸く一方、好景気を実感できている人は少ない。なぜか。
そもそも、「投資をしている人が少ないから」だとランダースさん。日本証券業協会の調べでは、日本人で株を持っているのは8人に1人。しかも圧倒的に高齢者が多い。
「つまり、8人のうち7人は株を一つも持ってないので、株価が上昇しても直接の恩恵は受けません」
そして景気を実感できない最大の理由は、「物価の変動を加味した『実質賃金』が上がらないから」だと指摘する。厚生労働省によれば、1月の実質賃金は前年同月比0.6%減少し、22カ月連続のマイナスとなった。
「ただ、いまはどの業界も人手不足が深刻で、給与のいい会社に転職する人も増えています。今後、社員を引き留めるために、賃金を上げる好循環が起きてくると思います」
賃金が上がれば、生産性も上がるという。

例えば、月20万円の給与を30万円に上げた場合、経営者はそれまでは生産性が悪くても給与が低いからと見逃していた。しかし30万円になれば、賃金に見合った仕事をしてくれるかどうか考えるようになる。そのため、経営者は生産性を上げる投資もするようになる、と。
「生産性を上げるための投資と賃上げは、密接な関係があります。失われた30年はその好循環が起きていませんでした。いま、ようやく、動きだしている期待があります」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年3月25日号