本書は難病のために引退を表明していた根津甚八が出演する同名映画のノベライズだ。監督・脚本の石井隆の、小説デビュー作でもある。
 1995年に公開されたバイオレンス・アクション映画「GONIN」の続編にあたり、ある5人組が暴力団から現金を強奪した事件の19年後が舞台だ。主人公は前の事件で死んだヤクザや警官の「遺児」たち。彼らもまた前の事件をなぞるかのように暴力団から大金を強奪する。簡単に容疑者が特定され、追っ手と凄惨な殺し合いになるのも酷似している。異色なのは、前の事件の登場人物のエピソードに約100ページを費やし、前作との関連を印象づけていることだ。
 著者は「愛するものを奪われたものたちのさらなる憎しみの連鎖」に焦点を当てる。また、ちあきなおみや森田童子の流行歌を挿入し、登場人物の心象に重ねる描写は、70年代にヒットした著者による劇画『天使のはらわた』(のちに映画化)から続く手法だ。憎悪とねじれた愛情がからんだ男女の姿は、現代のロミオとジュリエットの物語としても読める。

週刊朝日 2015年10月16日号

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