作家 今村翔吾さん/1984年、京都府生まれ。2022年、『塞王の楯』で直木賞受賞、「ホンミライ」理事長に就任。著書に『戦国武将伝』(東日本編・西日本編)など(撮影/写真映像部・小林修)

今村:人工知能、AIのタチが悪いのは、文明なのに文化の顔してやってくるところですよね。極端な話、司馬先生の文章をぜんぶ読み込ませたらそれっぽいことはできるんですよ、今の時代。けど、その違いを見つけられるかどうかは、受け取る側の僕らにもかかっていて、AIが発達したんじゃなくて、僕らが劣化している可能性もありうる。

古屋:この時代に、今村さんは各地で本屋さんを始められた。

文化外国語 専門学校校長、元NHKアナウンサー 古屋和雄さん/1949年、山梨県生まれ。NHK「街道をゆく」新シリーズの朗読を担当。96年3月「司馬遼太郎さんを送る会」の進行役を務めた(撮影/写真映像部・小林修)

今村:歴史のなかで無くなっていく職業なんて、山ほどあるわけです。もしかしたら書店、出版という文化もなくなっていくのかもしれない。でも単純に僕の感情論で、それは嫌なんです。

磯田:全自動の宿って、もう現れてきてますけど、全部の人件費を削ったら、1泊500円の宿が生まれるかもしれません。けど、20万とか30万とか、あるいはお城の天守だったら100万円でも払う人がいます。じゃあその違いはなにかというと文化の価値なわけです。

岸本:そこにしかない意味の連関があって、それの体験価値ですよね。ある時代に無価値だと思われていたものが次の時代には違ってくる。以前、人工知能に詳しい人の本を読んでて爆笑したんですけれども、その人が「次の時代に価値を生むものは何だと思うか」って聞かれて答えに詰まり、「思いやり」と答えていた。

今村:今村に茶の湯の知識をぶち込もうという企画が始まって、お茶の席に出たんです。関西人なんでやっぱり「これ(抹茶碗)、いくらぐらいですか?」ってなるじゃないですか。飲みかけに、「2千万」っていわれて、体が固まっていったん(器を)置きました。積み重ねてきた歴史が文化に変わっていって、値段がつかないような価値になる。僕もわかるようになりたいんですけど。

磯田:よく聞かれるんですよ。「価値を生むにはどうやって生きていけばいいですか」って。でも、今村先生のお答えのなかに、もうあるような気がします。「本屋さんが好きだからやる」。これ、大事なんですよ。僕もじつは子どものころ周囲に求められることは何もしませんでしたが、市立図書館に行って全国の電話帳を1ページずつ眺めながら、「この町にはどんな名字があるのか」を覚えようとした。そして、その町ごとにどんな神社があって、というのがおもしろい。私がいま聞かれてることは、そのときに仕入れた知識ばかりです。

(構成/フリーライター・浅井聡)

AERA 2024年3月18日号より抜粋

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