役者、映画監督だけでなく、アート作品も手掛ける竹中直人さん。想像でおじさんの顔を描き「おぢさんの小さな旅?」と題する個展まで開いた竹中さんに、類稀な想像力を活かして楽しむ竹中式アート鑑賞法を聞いてみた。国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展に合わせて発売された『マティス 自由なフォルム 完全ガイドブック』から、竹中直人さんのインタビュー後編を特別に公開します。
※前編「『ごめん、やっぱり描けないや』アート作品も手掛ける竹中直人さんが、高3の時にどうしても描けなかった絵とは」よりつづく
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――来日作品の《マティス夫人の肖像》をご覧いただいてどんな想像をされますか? こういう色の塗り方が当時大炎上したんですが。
竹中:今のSNSみたいですね。マティスは、当たり前に絵を描くというのが、つまらなくなったのかな……。素晴らしいデッサン力を持っているのに、それを自ら壊していくというのは、既に自分の中に完成されたものが存在しているということですものね。
――ありえない色を顔に塗って。
竹中:壊すのではないけれど、お芝居も日々変化していくものです。固まっていくとつまらない。芝居の変化というか……。最終的には[何もしない]ということに辿り着く気がします。例えば笠智衆(りゆうちしゆう)さんのように演じない、表現しようとしない、ただそこにいるというのかな……。決して悟りの境地ではないけれど。この絵で言えば、何も色を塗らない部分がとてもロマンチックだったりします。
――足し算ではなくて引き算なわけですね。
竹中:もしかしたら強い光に照らされて他の色は全て飛んでいたのかも知れない。排除するというのは技術的なことではなく意識の世界だと思います。意識がそこに色を添えたり、色を排除したりしているんだというふうに考えるとめちゃくちゃかっこいい絵に見えてきますね。
――想像をふくらませると、見え方が広がりますね。
竹中:狂言や歌舞伎など日本の伝統芸能には型があって崩せないものがありますがその時代に合わせて変化もしてゆきます。マティスは自分で作った型をさらに壊していって、マティスならではの個性に辿り着く。まさに挑戦的です。マティスならではの線、マティスならではの色。光、影。自分の妻を描くというのはすごいですね。そこには想像を超えた夫婦の姿がある。とてもロマンチックです。