高齢者が賃貸住宅への入居を断られてしまう「貸し渋り」の問題が深刻化している。超高齢化社会を迎えた日本では喫緊の課題だが、打開策はないのか。高齢者の部屋探しを専門に支援する不動産業者は、大家などの貸主を守る仕組みづくりと、高齢者に貸した経験がなく不安ばかりを抱える大家に、リスクを軽減する仕組みやサービスの存在を周知する情報発信の重要性を訴える。
【図表】「目減り」防衛策としての「年金繰り下げ」シミュレーションはこちら
昨秋、都内のとある賃貸住宅を管理している不動産会社に、警察から連絡が入った。住人の高齢男性が室内で死亡しているとの内容だった。
死後、1カ月ほど経過していた。
独り暮らしをしながら派遣で働いていた男性で、次の派遣先での仕事まで2カ月ほど空いていたため、外部との接点がほとんどなかったようだ。近隣の住民が郵便受けにチラシがたまっていることを不審に思い警察に通報したのだが、それがなければ発見がもっと遅れていたかもしれない。
いわゆる「孤独死」である。
不動産会社の社員は当時を振り返る。
「部屋に入ると凄惨(せいさん)な状況で、においがひどく、部屋を出たあとも自分の体についていたほどでした」
間取りは1Kだったが、特殊清掃や床の張り替えなどが必要で、大家が70万円ほどを負担した。
大家は、高齢者の入居に寛容な姿勢だったが、これを機に態度が180度変わってしまったという。
認識がアップデートされないまま
超高齢化社会を迎えている日本。総務省によると、65歳以上の独り暮らしの高齢者は2020年で約672万人、2040年には約900万人に増えるとみられている。
広い一軒家やマンションを持て余したり、買い物や通院などでより良い住環境を求めたりして、賃貸物件を探す高齢者がどんどん増えていくだろう。
だが、現実には孤独死や家賃滞納、遺品の処分などのリスクを恐れ、高齢者への「貸し渋り」が起きている。
「高齢者の入居に抵抗感を持つ大家さんがまだまだ多いのは事実です。昔と違い、今は60代でも若くて、仕事をしていたり、活動的だったりする方がたくさんいるのですが、特に年配の大家さんはそうした認識がアップデートされないまま、『高齢者を受け入れると大変なんでしょう』と、不安を抱え続けている方も多いのが現実です」